刺青・タトゥー除去治療の現状(Part1)

刺青・タトゥー除去治療には、切除、植皮(皮膚移植術)、削皮(皮膚剥削術)、レーザー(ピコレーザーを含む)・・・とさまざまな方法がありますが、最終的なゴールを予測して、その後の生活に支障が出ないような方法をしっかりと見極めて選ぶ必要があります。

刺青・タトゥー除去治療とは、極めて難しく厳しい分野であって、大多数の患者さんに本当に満足していただけるような魔法のような治療はありません。宣伝広告では「消す」という言葉が多用されているようですが、本当に消せる治療・消えたと言える結果は皆無と言えます。このことは、最新のレーザー治療・ピコレーザーであっても同じです。

レーザー治療(最新のピコレーザーを含む)は刺青やタトゥーを「薄くする」「傷跡に置き換える」といった治療です。また、切除・分割切除は「切り取る」「傷跡に置き換える」、植皮(皮膚移植)は「切り取る」「削り取る」「傷跡に置き換える」、削皮(皮膚剥削)は「削り取る」「傷跡に置き換える」といった治療です。

刺青・タトゥー除去治療とは、どのような方法を用いても「傷跡に置き換える」治療でしかありません。消しゴムで「消す」ような治療ではないのです。

大きな刺青やタトゥーを除去するには植皮(皮膚移植術)か削皮(皮膚剥削術)しかないということは言うまでもありませんが、大きな刺青やタトゥーだけでなく、ある程度の大きさの刺青やタトゥーであっても、最終的に完全除去を望むのであれば、植皮(皮膚移植術)か削皮(皮膚剥削術)しかありません。このことが大前提であって、ここがだまされないための重要なポイントです。

また、「切除」はごく小さな刺青やタトゥーに対してしか行ってはいけません。広い範囲の皮膚を切除すると必ず酷いことになります。このことは何回に分けても同じことです。

「分割切除」には、特にご注意ください。

六本木境クリニックには、他院で刺青・タトゥーの分割切除を受けた被害者が大勢相談に来られています。分割切除を受けた大体の方が「一回目と二回目の手術の間に皮膚が伸びます。伸びたら次の部分を切除しましょう」と説明を受けているようです。しかしながら、実際は、皮膚はほんの少ししか伸びないのです。これまで、組織拡張器・ティッシュエキスパンダー(皮膚を時間をかけて伸ばしていく機械)などを使用した経験がありますが、それらの経験を踏まえても「皮膚はほんの少ししか伸びない、何回に分けてもほぼ同じ」と断言できます。

刺青・タトゥーの分割切除の矛盾点ですが・・・一回目の手術の方が、瘢痕(傷跡)ができていなくて、皮膚や皮下組織が柔らかいため、手術しやすい状態と言えます。ですから、何回かに分けて縫い縮めることができるのであれば、一回目の手術で全てを切り取って縫い縮められるはずです。冷静に考えると、初回手術が一番縫い寄せやすいと言えるのです。わたくしは一回で切除できない刺青やタトゥーは、十回でも切除できないと思っています。

なぜこのような不思議な間違いがはびこるのかというと答えは簡単です。瘢痕(傷跡)を深いところまで全部取れる美容外科医・形成外科医が非常に少ないからです。人体には深いところほど大切で致命的なものがたくさんあります。深い部分の傷跡まで取るには技術も経験も度胸も必要です。

医療・医学というものは帰納法中心に考える学問、すなはち経験の蓄積による積み上げ式の学問です。このような分野では他の分野よりもずっとずっと多数決がものをいう世界です。その上、経験豊富な先輩や上司に逆らえない風潮が強く、いったん先人が間違ったことを言ってしまうと、非常に長い年月にわたって間違いが常識として続きやすい分野でもあります。

深いところの瘢痕(傷跡)まで全部取ることができない医師の手術では、いったいどのようなことが起こるのかというと、 例えば、分割切除の二回目で刺青やタトゥーの残りを切り取るときに、深いところの瘢痕(傷跡)を取りきらないと、その時点ではその部分の傷口は広がりません。

ですから、あたかも皮膚が伸びたかのように感じます。ですが、深いところの瘢痕(傷跡)を残したまま、分割切除を複数回続けていくと、切って、寄せて、縫い合わせた部分の皮膚はどんどん強く張っぱられていくことになりますし、瘢痕(傷跡)もどんどん増えていきます。そして、手術を受けた人は、強い絞扼感にずーっとさいなまされることになります。

そのような悲惨な状況の人に対して、瘢痕(傷跡)を完全に取ることができる医師が、絞扼感の原因となっている深い部分の瘢痕(傷跡)までを全て取り除くような修正手術をおこなうと、分割切除した皮膚の幅の合計に比例して恐ろしいほど傷口が開きます。皮膚は伸びていないということです。

はじめにお読みください

はじめにお読みください

2回目の手術で深いところの瘢痕を残すと傷口は開かない・・・このことを皮膚が伸びていると表現している場合が多い

深いところの瘢痕までキレイに取ることができると、合計の切除幅に比例して傷口がはじけるように開く。

もちろん途中であきらめることが前提でしたら、分割切除ではリスクをかなり小さくできるでしょう。しかし、刺青やタトゥーを完全に除去することが目的でしたら、何回に分けてもリスクはほとんど変わりません。

他院のホームページなどに刺青・タトゥー分割切除のモニター症例写真がたくさん掲載されていますが、そのほとんどが手術の途中経過であって、一番難しい部分を最後に残していているケースが多いです。刺青やタトゥーを完全に取り除くことができたのか、治療を完結できたのか大きな疑問を感じます。

初回手術時は瘢痕(傷跡)ができていなくて、皮膚や皮下組織が硬くなっていないため、刺青・タトゥー除去治療を最後まで完結させるのであれば、当然、初回に一番難しい部位を手術すべきです。まるで分割切除の途中で、痛みやしびれを理由に患者さんの方からあきらめてくれるのを待っているかのようにも思えます。

他院で刺青やタトゥーの分割切除を受けて、「痛みやひどい引き連れが生じて、日常生活に支障をきたした」「皮膚を切り取られすぎたためか、その部分がまるで紐で強く縛られているかのような状態になってしまった。睡眠薬が手放せなくなった」「あまりに汚い傷跡やケロイドになってしまった」などといった相談が後を絶ちません。

5回でタトゥーを全部切除できると言われたのに、3回目で痛みに耐えられなくなって、「痛い……」と言うと、「じゃ、治療は終わりね」と言われた。「何回かで刺青を切除します」と最初に説明されていたのに、1回目の手術で縫っている最中に「手がしびれてきました」と言ったところ、事前の説明なしに「じゃあ、植皮ね」と治療方法を替えられ、いきなり別のところから皮膚を採ってきて植皮された。1回目の手術の途中でいきなり「植皮にするか、あきらめるか、どちらか決めてください」と言われた・・という方々もいます。

また、他院の刺青・タトゥー除去モニター症例写真に多いのがテープ跡やテープ負けです。手術の傷跡が幅広くなって汚くなってきたら、テープ負けがひどいにも関わらず、「テープサボったね」と言われた方もいます。テープを貼らせることによって、患者さんを治療に参加させて、責任を分担させようとする作戦かもしれません。「あなたがかゆいと言ってテープを貼らなくなったから傷跡が汚くなったんですよ」と、自分の手術の良し悪しを棚に上げて、責任転嫁しているのかもしれません。

また、皮膚を切り取り過ぎたため、創縁にかかる張力が強く(縫い縮めた部分が強く引っ張られている状態)、ケロイドになってしまい、そのことを医師に言うと、急に語調が変わって「体質だよ」「動かしたね」などと言われたり・・、クレームを言うと逆ギレされて「刺青いれたのは自分でしょ?」と問題を挿げ替えるようなことを言われたり・・このようなことが日常茶飯事です。

「刺青いれたのは自分でしょ?(自分が悪いんでしょ)」などという気持ちが微塵でも心のどこかにあるような医者に刺青やタトゥーを除去して欲しい人なんてこの世にいないですよね。そして、少しも動かさないなんて日常生活できませんよね。動かしてはいけない・・などと言うレベルの手術はクリニックや外来で絶対に行ってはいけません。普通、総合病院形成外科に長期入院ですよね。そもそも患者さんの体質の個人差はごくごくわずかで、医者の個人差のほうがけた違いに大きいことは常識です。

他院で刺青・タトゥーの分割切除を受けて、六本木境クリニックに相談に来られた方で、一番おそろしかった症例は・・「2年3回で切除する」と最初に言われていたにもかかわらず、実際は、3年5回の切除を受けることになり、その5回目の手術後に傷口が張り裂けてしまい、半年もキズ口がふさがらず、臭い浸出液が出続けて、洋服も汚れ続けていた・・という非常に悲惨な状態でした。しかも、刺青は完全には取れていなくて墨がまだ残っていました。

他にも、刺青・タトゥー分割切除を3回予定していたが、2回目の手術後に地下鉄の吊革につかまったところ、傷口が裂けて大量出血してしまい、治療を断念したという相談もありました。


他院で分割切除を受けて、傷口が張り裂けてしまった悲惨な症例。

他院で分割切除を何度も受けたが、刺青がほとんど残っている。

 

もう一度言います。

切除は小さな刺青やタトゥーに対してのみ行うことができます。ある程度の大きさの刺青やタトゥーを除去するのであれば、手術方法は植皮(皮膚移植)か削皮(皮膚剥削術)しかありません。これが大前提です。

しかし、植皮(皮膚移植)にもご注意ください。広範囲の植皮の場合、「メッシュ植皮」という方法が一般的ですが、メッシュ植皮は太ももなどから皮膚を採皮して、メッシャーという機械に通してアミアミ状に薄く伸ばして貼り付けるという方法です。広範囲のやけど等で採皮部(ドナー)が少ない場合は、患者さんの命を救うために必要な方法かもしれませんが、素人の方から見ると・・まるで「ケロイド」「うろこ」「幾何学的模様」にしか見えないような非常に目立つ醜い傷跡となってしまいます。

【メッシュ植皮】
太ももなどから皮膚を採皮して、
メッシャーでアミアミ状に薄く伸ばして貼り付ける。

有名美容外科が20代女性のタトゥー除去に対して、このメッシュ植皮を行ったのを目にした時は、まるで凶悪犯罪を目の当たりにしたときのように本当に仰天しました。植えた部分だけでなく、採皮部(ドナー)の太ももにも醜く目立つ傷跡も残っていました。きっと、刺青・タトゥー除去治療を「どうせ自分でいれたんでしょ!」という差別の目で見ている医師の所業だと思います。

メッシュ植皮の傷跡

 

メッシュ植皮は論外ですが、植皮の場合はどのような方法を用いたとしても、境界線が目立つ独特な外観でして、何か別の動物の皮を貼りつけたかのように見える場合もあるほどです。そして、太ももなどの採皮部(ドナー。植えるための皮膚を採った部位)に傷跡が残ります。わたくしは、刺青やタトゥーが入っていない部位にわざわざキズを付けるようなやり方には賛同しかねます。

「Part2」につづく>