眉下切開のあと、
「洗顔はいつからできますか?」
という質問を、本当によく受けます。
ネットで調べると、
「抜糸まで洗顔禁止」
「傷口は濡らしてはいけない」
「洗うとしても、必ず避ける」
といった情報が、今でもたくさん出てきます。
正直に言うと、「それ、本当なの?」と思うことが少なくありません。
眉下切開は、切って縫う手術です。
だからこそ、洗えないと不便ですし、かえって危険なこともあります。
この記事では、
- 眉下切開後の洗顔はいつから可能なのか
- なぜ当院では手術当日から洗顔OKなのか
- やってはいけない洗い方・注意点
について、形成外科医の立場から、正直にお話しします。
眉下切開のあと、洗顔は手術当日からOKです
当院の眉下切開では、手術当日から洗顔OKです。
しかも「傷口を避けて」ではありません。
傷口も含めて、洗顔料を使って洗ってもらっています。
眉下切開の術後ケアなどは言わば敗戦処理
直後から洗顔剤で洗ったほうがばい菌少ない
5日程度のワセリンやゲンタシンなどで十分
絆創膏や創傷被覆材が必要なキズは縫合が雑
ケロコートやリザベンが必要なはず絶対ない https://t.co/55l35kb4zG— 六本木境クリニック (@roppongi_sakai) December 31, 2023
眉下切開のように「切って縫う」手術では、
- 抜糸まで洗顔できない
- 傷口は濡らしてはいけない
- 洗うとしても、必ず避けるように
と説明されることが、いまだに多いようです。
正直に言うと、洗顔ができないのはかなり不便ですし、合理的とも思えません。
1週間も顔を洗えないなんて、かゆくて、臭くて、地獄ですよね。ではなぜ、当院では真逆の説明をしているのか。次で、その理由を少し整理してみます。
「眉下切開後は洗顔禁止」と言われる理由を考えてみます
眉下切開後に
「洗顔は禁止です」
「傷は洗わないでください」
と言われる理由は、たぶんこうです。
「傷は安静にしたほうがいい」
という考え方です。
たしかに、ゴシゴシこすったり、強い刺激を加えるのはよくありません。
ただし、
洗うこと=刺激
と考えてしまうのは、少し短絡的だと思います。
そもそも、形成外科や外傷の世界では、
傷は“洗ったほうが安全”
という考え方が、今では当たり前です。
それなのに、
- 洗わせない
- 濡らさない
- フィルムで覆う
という指示が出るのは、洗えない縫合状態である可能性も否定できません。
傷をピッタリ合わせて、丁寧に縫っていれば、洗顔で簡単に開くことはありません。
むしろ、洗わずに放置するほうが問題が起きやすい。
では、なぜそう言い切れるのか。
次で、もう少し具体的に説明します。
傷は洗ったほうが、ばい菌は確実に減ります
ばい菌は、乾いた皮膚そのものにたくさんいるわけではありません。
血液、皮脂、汗、汚れ。
そういった有機物の中で増えます。
つまり、
「洗わない・汚れが残る・蒸れる」
この状態のほうが、ばい菌にとってはよほど快適です。
消毒すれば大丈夫、と思われがちですが、消毒でばい菌を完全に殺すことはできません。
それどころか、消毒を続けると皮膚が荒れて、傷跡がどす黒く汚くなることすらあります。
だから当院では、
「洗顔料を使って、やさしく、傷口も含めて洗う」
ことを、手術当日からお願いしています。
洗ったほうが、
- 汚れが落ちる
- かゆみが減る
- 無意識に掻かなくなる
- 最終的な傷跡がきれいになる
という、当たり前の結果につながります。
「傷は洗わないほうがいい」という考え方は、今の形成外科の感覚からすると、かなり不思議です。
眉下切開後の正しい洗顔方法(当院の場合)
「当日から洗顔OK」と聞くと、どうやって洗えばいいのか?本当に大丈夫なのか?と不安になる方も多いと思います。
当院でお伝えしている洗顔方法は、特別なことは何もありません。
ポイントはたった一つ、やさしく洗うことです。
ゴシゴシこすったり、爪を立てたりするのは当然NGですが、泡で包むように洗う分には、まったく問題ありません。
むしろ、
きちんと洗ったほうが、
- 血液や皮脂が落ちる
- かゆみが減る
- 傷を無意識に触らなくなる
というメリットがあります。
では、洗顔料はどうするのか。次でその点をはっきりさせます。
洗顔料は使った方がいいです(むしろ推奨)
当院では、洗顔料は使った方がいいと考えています。
というより、使ってください。
水だけで洗うと、血液や皮脂の汚れは十分に落ちません。
ばい菌は油汚れの中にいますから、洗顔料を使わないと意味がないんです。
もちろん、「刺激の強い洗顔料・スクラブ入り・ピーリング系」
こういったものは避けてください。
普段お使いの、ごく普通の洗顔料で十分です。
「傷口に洗顔料がついて大丈夫ですか?」と聞かれることがありますが、洗顔料がついても大丈夫です。
そもそも、傷につけられないようなものは、顔全体にも使わないほうがいいでしょう。
洗顔中に出血したら、ティッシュで圧迫しましょう
洗顔中に、少し血がにじむことがあります。
その場合、少し血がにじんでも慌てなくて大丈夫です。
ティッシュで、やや強めに1分ほど圧迫してください。
滅菌ガーゼである必要はありません。
むしろ、ガーゼよりティッシュのほうが、
「表面がなめらか・こすれにくい」
という点で、向いていることもあります。
それでも出血が止まらない場合は、もちろんご連絡ください。
ただし、ほとんどの場合は圧迫で止まります。
出血を怖がって洗わなくなるほうが、かえって問題です。
「傷を避けて洗う」「フィルムを貼る」は逆に危険です
「傷口は避けて洗ってください」
「フィルムを貼って、濡れないようにしてください」
こういった説明を受けた、という話をよく聞きます。
正直に言います。これらの行為は、かえって危険かもしれません。
傷を覆って洗うという行為は、言ってみれば、ビニールハウスでばい菌を培養しているようなものです。
- 蒸れる
- 汚れが落ちない
- かゆくなる
- 無意識に掻く
結果として、
傷跡が汚くなる可能性が高くなります。
眉下切開のような縫った傷も消毒すると色素沈着する、普段通りの洗顔剤などで普通に洗うほうがよい
そしてワセリンやゲンタシン塗るだけでOK
丁寧に縫合されてるとキズパワーパッドのような創傷被覆材や絆創膏はぐ時の刺激で傷跡めだつから貼る必要一切ない(画像は手術直後) pic.twitter.com/bRsa7rMOQQ— 六本木境クリニック (@roppongi_sakai) April 11, 2023
また、フィルムやテープは、はがすときの刺激によって、
「毛が抜ける・皮膚トラブル」
といった別の問題も起こしがちです。
傷がピッタリ合って、丁寧に縫われていれば、覆う必要はありません。
洗って、清潔に保つ。これが一番シンプルで、安全です。
洗顔以外はいつからOK?(洗髪・メイク・入浴)
洗顔が当日からOKだと聞くと、
「じゃあ、洗髪はしてもいいの?」
「メイクはしてもいいの?」
「お風呂は入ってもいい?」
といったことも気になりますよね。
ここも結論からお話しします。
洗顔と同じ考え方で、OKなものと、注意が必要なものがあります。
順番に説明します。
洗髪・シャンプーも当日からOKです
当院の眉下切開では、洗髪・シャンプーも手術当日からOKです。
これも、洗顔と同じ理由です。
- 汚れを落としたほうが清潔
- かゆみが減る
- 無意識に触らなくなる
というメリットがあります。
「傷にシャンプーがついて大丈夫ですか?」と聞かれることがありますが、基本的に問題ありません。
もちろん、傷を
「ゴリゴリ洗う、強い水圧を直接当てる」
こういったことは避けてください。
泡でやさしく洗って、シャワーで流すだけで十分です。
当院では、眉下切開の手術当日の朝に洗髪して来ていただき、
帰宅後も普通に洗ってもらう、
という流れをお願いしています。
洗えない期間があるほうが、よほどストレスが大きいと思います。
メイクも当日からできます(眉以外)
メイクについても、よく聞かれる質問の一つです。
結論としては、眉と目の周りを避ければ、手術当日からメイク可能です。
ファンデーションやチークなど、顔全体のメイクは問題ありません。
眉メイクについては、
パウダーやリキッド → 翌日からOK
ペンシルでゴリゴリ描く → しばらく控えたほうが無難
と考えています。
これは「絶対禁止」という話ではありませんが、ペンシルはどうしても刺激が強くなりがちです。
できれば、眉下切開の手術後
- 2〜3カ月はペンシルを使わない
- パウダーやリキッドで代用する
ほうが、最終的な傷跡はきれいになりやすいと思います。
当院で「家族にバレなかった」という話をよく聞くのは、直後からメイクできることも理由の一つかもしれません。
入浴は注意が必要、2〜3日は控えましょう
洗顔や洗髪は当日からOKですが、入浴だけは少し注意が必要です。
具体的には、湯舟につかる入浴は2〜3日ほど控えてください。
理由はシンプルで、体を温めると出血しやすくなるからです。
血液は全身をすごい勢いで循環しています。湯舟で体全体を温めると、眉下の傷口も温まり、内出血が悪化しやすくなります。
一方で、
- シャワーだけにする
- 湯船につかる場合は短時間、ぬるめ
であれば、手術当日から問題ありません。
基本的には真冬でも、室温をしっかり暖かくして、シャワーで済ませるようにしましょう。
当院の眉下切開が「洗顔は当日からOK」な理由
ここまで読んでいただくと、「なぜ、世間一般で言われていることと違うの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。
理由はシンプルです。
傷を、丁寧に切って、丁寧に縫っているから。
当院の眉下切開では、
- 単結節縫合で細かく縫い合わせる
- 不必要な剥離をほとんど行わない
- 手術中にゴミや毛の切れ端を徹底的に取り除く
といったことを、当たり前のこととして徹底しています。
私の眉下切開は単結節縫合なので直後から洗顔剤で洗える;洗った方がばい菌や汚れ少ないので感染しにくく最終的な傷跡キレイ pic.twitter.com/XqlN3U3iqw
— 六本木境クリニック (@roppongi_sakai) November 3, 2023
その結果、
「傷がピッタリ合う・洗っても開かない・汚れが残りにくい」
という状態になります。
実際、当院では3000例以上の眉下切開を行っていますが、感染は1例も起きていません。
洗えないから安全なのではなく、洗える状態に仕上げているから安全なのです。
他院で眉下切開を受けた方へ
ここまでお話しした内容は、あくまで当院の眉下切開についての話です。
すでに他院で手術を受けている方は、まずは執刀医の指示を優先してください。
縫合方法や手術内容が違えば、術後管理も変わります。
ただし、
- 説明に違和感がある
- 不安が強い
- 何となく納得できない
そう感じた場合は、セカンドオピニオンを受けること自体は、まったく悪いことではありません。もちろん、当院にご相談いただいても構いません。
眉下切開は、傷跡が目立つかどうかが結果を大きく左右する手術です。
納得したうえで、安心して経過を過ごしていただければと思います。
まとめ|眉下切開後の洗顔は、当日からOKです
この記事の内容を、最後に簡単にまとめます。
当院の眉下切開では、
- 洗顔は手術当日からOK
- 傷口も含めて、洗顔料を使ってやさしく洗う
- 洗髪・シャンプーも当日から可能
- メイクは眉以外なら当日からOK
- 入浴で湯舟につかるのは2〜3日控える
という考え方で、術後管理を行っています。
傷は、洗わないほうが安全なのではありません。
きちんと切って、丁寧に縫えば、洗ったほうが安全
というのが、当院の考え方です。
もちろん、これはあくまで当院の眉下切開の場合の話です。
他院で手術を受けた方は、まずは執刀医の指示を優先してください。
ただし、「本当にそれでいいのかな?」と疑問を感じたら、一度立ち止まって考えてみることも大切だと思います。
眉下切開は、手術だけでなく術後の過ごし方も、最終的な傷跡を左右する手術です。
不安を減らし、納得した状態でダウンタイムを過ごしていただければ幸いです。
