眉下切開の手術器具
眉下切開のキズや傷跡についていつもあつく語っています。前回は眉下切開の手術手技・方法について述べましたが、手術・手技方法・手術の経過や結果・そのクオリティーを支える縁の下の力持ちは手術器具です。
いくら腕のいい名医が慎重に時間をかけて手術を行っても器具がどうしようもないものだと良い結果は出ません。
今回はきれいなキズや傷跡を実現するための眉下切開の手術器具について、いつものようにあつく語って行きたいと思います。
六本木境クリニック眉下切開の手術器具
眉下切開は切って縫うだけの手術なので、手術器具は意外とシンプルです。この中にはないのですが、20ccシリンジに入った生理食塩水も1つ必要です。
眉下切開のキズの中に上皮成分・眉毛・うぶ毛などが入らないほうがいいので、生理生理食塩水で洗浄しますし、ガーゼは何度も替えるのでそこそこ使用します。
創縁(キズ)を乾燥させないことが大切ですので、生理食塩水でヒタヒタにしたガーゼも使います。
眉下切開で使用するメス刃
眉下切開を行う場合、まずは毛包斜切断法で切開します。わたくしは手術用ベッドを15度くらいギャッチアップさせて切ります。
前回も述べましたが、眉下切開のようなまぶたやまぶたの周囲の手術を行う場合、睫毛に近いほうから必ず切開します。
睫毛に近いほど安定しないので、先に眉毛側を切り離してしまうと睫毛側はものすごく不安定で切りにくくなってしまいます。
また、手と手がかち合った時に大きな事故が起こると言う迷信をわたくしは信じていますので、できるだけ直接介助なしで手術を行うようにしています。
そのため、左手(利き手と逆側の手)まで全ての指をできるだけ休ませず、手術に参加させるようにしています。
尖刃11番メスではなくて、円刃15番メスを使用します。尖刃は細かいところの操作はやりやすいのですが、あっという間にキレが悪くなるので、眉下切開のような切開線の長い手術には向きません。
特に毛包斜切断の眉毛側(上側)に尖刃11番メスを使用すると最初の1つ目の毛根を切ったとたんに切れ味が悪くなると思います。
1回の眉下切開手術で使用するメス刃は合計4枚です。左右の上下でそれぞれ別々の刃を使用します。また、切開の作業がスムーズにすすむように、メスホルダーが最低2本は必要です。
眉下切開の切開法などの詳述
わたくしは左から手術を行うことが多いので、
- 左の睫毛側を皮膚に対して斜め45度のイメージで円刃15番を使用して切開します。
- 左の眉毛側を皮膚に対して斜め45度のイメージで円刃15番を使用して切開します。
- 左の眉頭の端の切り取って捨てる皮膚(上下の切開線の内側)を太めの鈎ピンでガッチリと把持して、円刃15番を用いて端を整えます。
- 左の眉尻の端の切り取って捨てる皮膚(上下の切開線の内側)を太めの鈎ピンでガッチリと把持して、円刃15番を用いて端を整えます。
- 形成剪刀(ハサミ)を用いて、眼輪筋(筋肉)をできるだけ傷つけないように眼輪筋上で皮膚・皮下組織を丁寧に時間をかけて切り取ります。
- バイポーラで丁寧に時間をかけて止血します。
- 生理食塩水で洗浄して、生食ガーゼをのせます。
- 右の操作も同様です。
- 右の操作が終わったら、眼輪筋の折り畳み縫いを始めます。
尖刃11番を使用する場合はごくまれで・・上皮成分が迷入しそうなささくれができてしまった時、拡大鏡でしか見えないような1つのささくれを切るときだけです。このときに使用する道具は、尖刃11番と尖端が0.7mmのチタン製鈎ピン(手術用ピンセット)、小さなハサミ(眼科用剪刀)です。
眼輪筋(筋肉)はできるだけ傷つけません。なぜなら、眼輪筋(筋肉)を傷つければ傷つけるほど内出血は激しくなりますし、痛みやシビレなどが残りやすいと思われるからです。
ROOF(比較的浅い脂肪)や眼窩脂肪も眼輪筋(筋肉)の場合と同じ理由でできるだけ傷つけません。
チタン製セッシ(手術用鑷子)とバイポーラ
下記はチタン製セッシ(鑷子:手術用ピンセット)とバイポーラ凝固止血器ですが、チタン製セッシは尖端が0.3mmのものも使用したことがありますが、機械洗浄のとき、すぐに曲がってしまうので使うのを断念して、現在はすべて尖端が0.7mmの太さのものを使用しています。
わたくしはモノポーラ―の電気メスではなくてバイポーラで出血を止めています。バイポーラの特徴はごく狭い範囲を点で焼くことができることです。
でも、わたくしはあまり細いバイポーラは好みではありませんので、尖端が3mmのものを使用しています。
もともとやけどの医者(熱傷専門医)なので・・人の体を焼くことに対して潜在的な抵抗感があるからでしょうか?エネルギーはかなり弱めで使用しています。おそらく、わたくしがモノポーラ―の電気メスを一切使わないことも同じ理由によると思います。
チタン製ヘガール型持針器
持針器はヘガール型というものが好みです。わたくしは手が女子並みに小さいので、小さければ小さいほど好きです。もともと、持つところがゴールドのステンレス製ミニヘガールを使っていたのですが、最近は青いチタン製のものを使用しています。
チップという先端がギザギザのものを使用していたのですが、それでは極細糸を把持して結ぶ操作がやりにくいので、今では尖端のチップがツルツルのものを使用しています。
糸を結ぶときに糸がが引っかかることが嫌いなので、少しでも引っかかると返品するほどです。
1回の手術でたくさん縫わない医師は気にならないのかもしれませんが、わたくしの眉下切開ではおそらく90回から100回くらい縫っています。1回引っかかると嫌になりますよね。
眉下切開で使用する糸
わたくしの眉下切開で使用する糸はすべて溶けない糸・非吸収糸です。中縫いを吸収糸・溶ける糸で縫合すると傷跡がキレイになりにくいことは広く知られています。
中縫いは片側約10針、皮膚縫いは片側で30~40針も縫うので、1回の手術で中縫い用の5-0白ナイロンは2つ、皮膚縫い用の半透明青ナイロンは3つ使います。
眉下切開の縫い方
前回もかなり詳しく眉下切開での縫い方や糸結び法について記載しましたが、今回は縫い方について別の角度から詳述したいと思います。
- 眉下切開の中縫いは5-0白ナイロンで筋肉の折り畳み縫いに軽い真皮縫合を交える形で行います。筋肉の折り畳み縫いは外から2番目が一番強く内側ほど弱いイメージです。
- 糸をかける順番は一番内側→一番外側、(外側から2番目)、真ん中付近、中、外と中間的なところ5~6針をかけて、一旦、無影灯を消して目を開けてもらい、左右差を確認します。
- 糸を切る時は片側を長めに残しておいて、後で抜糸して調整できるようにしています。無影灯を消して目を左右差を何度も確認します。あとは糸のかけかたで左右差を調整します。
- 目を開け閉めして変な線が出ないようにまぶたを上手く引き伸ばします。眉下切開の中縫いは片側10針くらいになります。
- 毛包斜切断法による眉下切開の皮膚縫いは睫毛側と眉毛側を同じ感じで糸をかけてしまうと、うすい睫毛側の皮膚が眉毛側に乗りあがって先日のブログで詳述したトラップドア変形が強調されやすいです。
- このため皮膚の縫い方は睫毛側1に対して眉毛側9くらいの割合で糸をかけます。
- この時も一番注意するところは目を開け閉めして変な線が出ないようにまぶたを上手く引き伸ばすことです。大まかに片側15針くらい縫ったら、目を開け閉めしてもらって、よかったらステリーテープで眉毛を抑えてから、追加で縫います。
- 片側30~40針くらい縫います。意外にキモは地味です。それは、1針ごとに面倒くさがらず、尖端が0.7mmのセッシでインバートしていないこと(表皮側がローリングして傷口に落ち込んでいないこと)を確認することです。
結局は医者の技術や心構え次第
いろいろと述べてきましたが、結局は医者の技術や心構え次第と自分に言い聞かせながら、1つの手術に2時間かけて丁寧に眉下切開を行っています。
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